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東京地方裁判所 昭和50年(モ)8973号 判決 1975年8月15日

申立人 佐々木秀剛

右訴訟代理人弁護士 原則雄

被申立人 佐々木みつい

右訴訟代理人弁護士 竹内竹久

主文

申立人と被申立人との間の東京地方裁判所昭和四一年(ヨ)第一〇八五号仮処分命令申請事件について、同裁判所が同年二月二二日なした仮処分決定は、これを取消す。

訴訟費用は、被申立人の負担とする。

この判決第一項は、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申立人

主文第一、二項同旨。

二  被申立人

申立人の申立を棄却する。

訴訟費用は、申立人の負担とする。

第二当事者の主張

一  申立の理由

(一)  被申立人は、申立人を債務者として、別紙目録記載の土地建物につき、被申立人が贈与によりその所有権を取得したと主張して、占有移転禁止(執行官保管)、処分禁止の仮処分を申請し(東京地方裁判所昭和四一年(ヨ)第一〇八五号事件)、同年二月二二日その旨の仮処分決定を得た。

(二)  被申立人は、申立人を被告として、右仮処分の本案にあたる土地建物所有権移転登記手続請求の訴を提起したが(東京地方裁判所昭和四二年(ワ)第九一四九号事件)、右土地建物はいずれも申立人の所有に属するとの理由で、昭和四七年七月二五日被申立人(原告)の請求棄却の判決を受け、これを不服とする控訴に対しても(東京高等裁判所昭和四七年(ネ)第一九六五号事件)、昭和五〇年三月二七日控訴棄却の判決を受けて、右判決は確定した。

(三)  よって、前記仮処分決定は、本案判決の確定によってその事情が変更し、原因及び必要性が消滅したから、右仮処分決定の取消を求める。

二  被申立人の答弁

申立の理由(一)(二)の各事実は認めるが、(三)の主張は争う。

被申立人は、本件仮処分決定の本案訴訟においては、本件土地建物の所有権取得を主張していたが、この度申立人に対し離婚及び財産分与等の申立をなす予定であるところ、被申立人の有する財産分与請求権に基づき少くとも本件土地建物は被申立人の所有に属すべきものであり、そのために本件仮処分決定は維持する必要があるから、その取消を求める本件申立は理由がない。

理由

一  申立の理由(一)(二)の各事実(仮処分決定の存在、及びその本案訴訟で被申立人敗訴の判決が確定したこと)は、当事者間に争いがない。

二  被申立人は、本案訴訟では敗訴の判決が確定したけれども、これから申立を提起する予定の財産分与請求権を保全するために、なお本件仮処分決定を維持する必要がある旨主張するが、保全処分は、本案判決確定に至る間の執行保全を目的とする暫定的措置に他ならないから、本案判決が確定すれば、その存立の根拠を失なうものといわざるをえないことは明らかなところである。もとより、保全処分は、その緊急性ゆえに、当事者においても被保全権利について確定的判断を下すに至らない段階で申請せざるをえない場合が多く、他方、本案訴訟では請求の基礎に変更がない限り原則として訴の変更が許されることを考慮すると、当該保全処分は、その被保全権利以外に、これと請求の基礎を同じくする権利のためにこれを流用することができるものと解するのが相当であるが、そうだとしても、これらの権利は一個の本案訴訟で併合して主張することができるのであるから、本案訴訟で保全処分債権者敗訴の判決が確定した以上は、もはや当該保全処分を他の権利保全のために流用することは許されないものと解する。したがって、本件においても、本案判決が確定した以上、本件仮処分決定を被申立人の主張する財産分与請求権保全のために流用することは許されず、右財産分与請求権が、本件仮処分における被保全権利と請求の基礎において同一性があるか否か、およそ仮処分の被保全権利たりうる適格性を有するか否かなどを検討するまでもなく、被申立人の主張は失当である。

結局、本件仮処分決定は、事情の変更により取消さるべきものと認める。

三  よって、申立人の本件申立は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩井正子)

<以下省略>

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